米下院の特別委員会は、中国がフェンタニル製造に必要な化学物質の生産企業に対し、輸出向けに補助金を提供しているとする報告書を発表した。米国ではフェンタニル中毒が深刻な社会問題となっており、今回の指摘が米中関係に新たな火種をもたらす可能性がある。
中国の化学企業に対する補助金、米国の懸念深まる
米下院の中国共産党に関する特別委員会は4月16日、中国政府がフェンタニルの類似体や前駆体を製造する企業に対し、輸出時に付加価値税の還付を適用していると指摘した。報告書によれば、中国国家税務総局のデータを基に、最大13%の税還付が行われている化学物質が一覧化されており、2024年4月時点でも補助金は続いているという。
フェンタニルは、医療用の強力な鎮痛剤として使用される一方で、違法取引の拡大によって米国のオピオイド中毒危機を加速させているとされる。報告書を発表した**マイク・ギャラガー委員長(共和党)**は公聴会で、「中国はフェンタニルが米国に流入し、中毒が社会に混乱と荒廃をもたらすことを望んでいるようだ」と強い懸念を示した。
中国側の反論—米国のフェンタニル危機は国内問題?
この指摘に対し、中国政府はすぐに反論を展開した。在米中国大使館の報道官は電子メールで声明を発表し、「中国は米国当局と協力し、フェンタニルや前駆体の取り締まりを強化している」と主張。また、「違法な密輸、製造、密売を防ぐための特別対策を実施しており、米国のフェンタニル危機の原因は中国にはない」との立場を示した。
実際、バイデン米大統領と習近平国家主席は2023年11月の会談で、フェンタニルの生産と輸出抑制に取り組むことで合意している。その後、2024年1月には米中合同の麻薬対策作業部会が発足し、両国の協力体制が強化される動きもあった。しかし、今回の報告書が示す通り、中国国内の化学企業が輸出向けに補助金を受けているとすれば、米国側の懸念は依然として解消されていない。
今後の展開—米中関係に新たな摩擦か?
フェンタニルの流通を巡る米中の対立は今後、さらに激化する可能性がある。米国では、フェンタニルの違法流通が原因で年間10万人以上がオーバードーズ(薬物過剰摂取)で死亡しており、社会的な危機感が強まっている。一方、中国側はフェンタニル問題を「米国の国内問題」と位置づけ、米国政府の対応不足を批判することも多い。
また、今回の報告書が指摘する補助金制度が実際に撤廃されるかどうかは不透明だ。仮に米国がさらなる圧力をかけ、中国政府が対策を強化しなければ、今後の貿易協議や外交交渉にも影響を及ぼす可能性がある。特に、フェンタニル問題が2024年の米大統領選挙の争点の一つとなることも予想され、今後の米中関係の行方を左右する重要な要素となりそうだ。
- 米下院の特別委員会が、中国がフェンタニル関連化学物質の輸出向け補助金を提供していると指摘。
- 報告書によれば、最大13%の付加価値税還付が適用され、2024年4月現在も継続中。
- 中国政府は「米国と協力して取り締まりを強化している」と反論し、フェンタニル問題の責任は中国にはないと主張。
- バイデン大統領と習近平主席は2023年にフェンタニル対策で合意し、2024年1月には合同対策チームを発足。
- フェンタニルの違法流通問題は米中関係の新たな火種となり、外交・貿易交渉にも影響を及ぼす可能性が高い。
【補足情報】
- フェンタニル(Fentanyl)
- 合成オピオイドで、医療用鎮痛剤として使用されるが、違法流通が問題化している。
- マイク・ギャラガー(Mike Gallagher)
- 米下院の「中国共産党に関する特別委員会」委員長(共和党)。
- バイデン大統領と習近平主席の合意(2023年11月)
- 両首脳がフェンタニルの生産と流通を抑制するための協力を約束。
- 米中合同麻薬対策作業部会(2024年1月発足)
- フェンタニル問題に対処するための両国共同の対策チーム。
- 米国のオピオイド危機
- フェンタニルを含むオピオイドの過剰摂取で毎年10万人以上が死亡。
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